気持ち悪いのに続きが気になって読まずにいられない 『澱の中』が刻む静かな地獄

澱の中・夢空黒子 連載中
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本記事は『澱の中』の物語展開やキャラクターの関係性に関するネタバレを含みます。連載中の内容を既に読了されている方を対象としています。

恋愛とも違う、復讐とも呼べない。
罪を犯した男と、それを知りながら距離を詰める女――ふたりの関係は、加害と被害という単純な言葉では語れません。
漫画『澱の中』は、欲望と自己嫌悪が濁流のように交差する中で、「気持ち悪いのに目が離せない」と話題を集めています。

正直、1話目を読んだときは「なんだこれ?気持ち悪っ」と思いました。けれど読み進めるうちに、意外な展開に引き込まれてしまい、気づけば続きが気になってページをめくっていました。

どうして彼女はあの瞬間、彼を拒絶しなかったのか。
なぜ彼は、自分が踏み越えた一線を後悔しないのか。
その関係性の奥にある“澱”の正体とは、いったい何なのでしょうか?

この記事のポイント
  • なぜ夢空黒子は加害者に近づいたのか
  • 「理想の女性」が引き起こす倒錯の連鎖
  • 支配と快楽が重なる罪の瞬間
  • 軽蔑と利用が交差する歪な主導権
  • 共依存が生む静かな地獄の構造
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夢空黒子の出現が次郎の欲望を暴走させた

澱の中

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澱の中』において、夢空黒子という人物の登場は、五味次郎の心の底に沈殿していた欲望を掘り起こし、制御不能な衝動へと変質させました。彼女は、次郎が長年抱いてきた性的幻想そのもののような外見で現れ、現実と妄想の境界が一気に曖昧になっていきます。

次郎の日々は、単調な工場勤務と自慰的な創作活動だけで回る、淀んだ閉塞状態でした。そんな停滞の中に現れた黒子は、単なる好意の対象ではなく、「欲望の対象としてのリアルな象徴」として彼の前に立ちはだかります。その瞬間から、次郎の中でコンプレックスや支配欲が静かに膨らみ始めました。

特に決定的だったのは、次郎が“ある一線”を越えた場面です。この行動は偶発的な過ちではなく、彼の中にあった「現実への渇望と、妄想を現実化したいという衝動」の果てにあった選択といえます。その裏には、社会や女性に傷つけられてきたという被害者意識と、それを逆転させたいという歪んだ欲望が複雑に絡んでいます。

黒子の登場によって、次郎は“加害者”であると同時に、“自分を解放した存在”としての側面も得てしまいます。彼女を「理想のままの姿」で止めておきたい、支配したいという願望が彼の倫理感を溶かし、もはや元には戻れない地点まで連れていったのです。

この構造が示しているのは、黒子の出現が単なる恋愛のトリガーではなく、次郎にとっての“自己の欲望に正面から向き合う装置”であったこと。そこから先、彼は理性ではなく“澱”に導かれた存在へと変貌していきます。

  • 単調な工場勤務で変化のない毎日
  • 同人創作で欲望を処理する孤独な生活
  • 強い自己嫌悪と女性への劣等感を抱えていた

「理想の女性」との出会いが壊した日常

夢空黒子との出会いは、五味次郎にとって偶然の邂逅ではなく、彼の内面に長年蓄積されていた欲望を解放する“引き金”となりました。彼女の容姿は、次郎が同人誌の中で描いてきた理想の女性そのもので、「現実に現れた妄想」として彼を強く揺さぶります。

もともと次郎は、工場という閉鎖的な環境の中で孤立し、性的な欲望を創作によって処理するだけの生活を送っていました。彼にとって人間関係は煩わしさであり、現実の女性との関わりを避けることでバランスを保っていたともいえます。そんな日常は、黒子という“欲望の具現”の出現によって一瞬で崩れてしまいます。

黒子の存在は、単なる憧れではなく、次郎にとって「自分の妄想が手に届くかもしれない」という錯覚を与えました。彼は彼女に近づくたび、現実と妄想の境界を踏み越え、やがて理性の制御が効かなくなっていきます。この過程において、彼の日常はすでに正常性を失っており、倫理のタガは徐々に緩んでいきました。

黒子が理想通りすぎたために、次郎は彼女を“人”ではなく、“幻想の延長”として見てしまったのです。この歪んだ認知が、彼の内面にある「支配欲」と融合し、日常の崩壊を不可逆的なものにしてしまいました。

罪を犯した瞬間に芽生えた“支配する快楽”

五味次郎が犯した罪は、彼にとって倫理的な境界を超えた行為であると同時に、それまでの人生で感じたことのない「快楽」をもたらすものでした。この快楽とは単なる性的なものではなく、自己が他者を支配できたという感覚に根ざしたものであり、まさに“支配欲”の目覚めともいえる瞬間です。

次郎の内面にはもともと、社会からの孤立と女性に対する劣等感が強く根を張っていました。黒子という理想の女性像に近い存在を前にしたとき、彼の願望は「好かれたい」から「支配したい」へと、静かにしかし確実に変化していきます。そしてその頂点で彼が選んだ行動は、倫理的に許されない一線を越えるものでした。

しかし、この“越えてしまった”瞬間に、次郎は一種の達成感や開放感を感じています。黒子を自分のものにした、現実に介入して自分が主導権を握ったという感覚。それは彼にとって初めての絶対的な優越感であり、社会の片隅にいた自分が他人の運命を左右できたという強烈な実感でもありました。

“快楽”の怖さは、次郎が罪を悔いず、そこから得た力に執着してしまう点にあります。以降の彼の行動は、黒子を手放したくない、もう一度支配したいという衝動に突き動かされていきます。次郎にとって罪は罰ではなく、むしろ快楽への入り口になってしまったのです。

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なぜ夢空黒子は加害者と距離を縮めたのか

澱の中・五味次郎

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夢空黒子が五味次郎の罪を知ったうえで、なぜあえて距離を縮めたのか――この問いこそが、読者の倫理観をもっとも揺さぶる部分です。被害者であるはずの彼女が、加害者に対して取った予想外の行動こそ、本作のサスペンスを支える核になっています。

黒子は、次郎の行為を軽蔑していると明言しながらも、彼を警察に突き出すことなく、むしろ飲みに誘うという常識では考えにくい行動を取ります。この一見矛盾した態度の背景には、彼女自身の「抑圧された環境」と「優位に立ちたい欲求」が密接に関わっていると考えられます。

作中の彼女は、毒親に搾取される家庭で育ち、経済的にも精神的にも自立できない状況に追い込まれています。そんな中で次郎の罪を知ったことは、彼女にとって単なるショックではなく、“自分が主導権を握れる初めての他者関係”として認識された可能性があります。つまり、黒子は次郎を赦したのではなく、罪を「知っている自分」という立場から、彼を精神的に支配しうる存在として見なしたのです。

この構造は、「赦し」や「歪んだ愛情」では片づけられないものです。黒子の行動は、現実で得られなかった「主導権」や「優越感」を、加害者を支配することで手に入れようとしたものであり、その意味で彼女も別のかたちの“倒錯”へ足を踏み入れています。

黒子のこの選択は、読者に“正しさ”ではなく“理解できないけれど無視できない”という感情を突きつけます。この奇妙な関係性が、物語を単なる加害と被害の対立に収めず、より深い共依存の迷路へと誘っていきます。

  • 毒親による経済的・精神的な搾取
  • 職場での受動的な立場と孤独感
  • 次郎の罪を握ることで得られる優位性

飲みの誘いが示す逆転の主導権

夢空黒子が五味次郎に「飲みに行こう」と持ちかけた場面は、物語の中でも特異な印象を残すシーンです。被害者であるはずの彼女が、加害者を誘い出すという行動は、一般的な倫理観では説明がつきません。しかしこの“誘い”こそが、彼女の主導権が明確に移行した瞬間を象徴しています。

次郎にとって飲みの誘いは“赦し”や“脈あり”のサインと受け取られかねないものでしたが、黒子は決して彼を許したわけではありません。むしろ彼女の視点では、相手の罪を握っているという優位性を意識的に活用する行動だったと読み取れます。彼女は「罪を知っている自分」という立場から次郎の前に立ち、その関係性を利用し始めたのです。

黒子にとって、この行動は精神的なリベンジとも言えます。家庭でも職場でも常に従う側だった彼女にとって、初めて誰かを“支配する側”に回れた瞬間だったのです。その誘いは、力関係の逆転を静かに宣言するものであり、社交辞令とはまるで意味合いが違っていました。

このやり取りをきっかけに、次郎と黒子の関係は大きく転化していきます。支配していたはずの次郎が、気づかぬうちにコントロールされる側へと滑り落ちていく構図がここから始まるのです。

「軽蔑しながら利用する」という歪な選択

夢空黒子は、五味次郎に対して強い嫌悪感を抱いています。彼女は彼の行為を明確に「気持ち悪い」と形容し、内心では軽蔑していると描かれています。それにもかかわらず、彼との関係を完全に断ち切るのではなく、むしろ距離を詰め、時には自ら主導して接点を持とうとする。この相反する態度こそが、彼女の選択の歪さを物語っています。

黒子は、支配される側から支配する側へと立場を転じた瞬間から、次郎という存在を「便利なコマ」として利用しはじめます。軽蔑の念は消えておらず、むしろその感情を抱えたまま、次郎の罪や弱さを武器として握りしめることで、主導権を維持しようとするのです。この構造は、彼女が“赦し”の感情に基づいて動いているわけではないことを強く示しています。

一方で、黒子自身の環境もまた彼女の行動に影を落としています。家庭では毒親に搾取され、職場でも受け身でしかいられなかった彼女にとって、自分の意思で優位に立てる唯一の相手が次郎でした。ゆえに黒子は、その優位性を確保するためには“軽蔑している男を利用する”という矛盾をも引き受けたのです。

この選択は、倫理的には到底受け入れられるものではありません。しかし、彼女にとっては唯一の“対等以上”でいられる関係であり、弱者であり続けた自身を保つための自己防衛でもありました。その意味で黒子もまた、次郎とは異なるベクトルで“澱”に呑まれつつあると言えるでしょう。

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読者の声が映す“澱”の読後感

読後に胸がざわつくのに、ページをめくる手が止まらない。普通の恋愛劇ではなく、支配と依存の線がじわじわ濃くなる感覚がクセになる。

物語の後半で関係が壊れずに継続する展開に驚いた。安っぽい性的刺激ではなく、過去の欺瞞が自分に返ってくる構図が一番怖い。

最新話で一気に“ヤバさ”が加速。怖いのに目を離せない、この不快と緊張の両立は推薦コメントの言葉どおり。

毒親や結婚の現実がにじむ描写に納得。彼女が優位性を握る理由が見えた瞬間、二人の関係が別物に見えた。

気持ち悪さが勝ちすぎて読了がしんどい回がある。人を選ぶ作品だと思う。

共依存が生んだ静かな地獄から目を逸らせない

五味次郎と夢空黒子の関係は、加害と被害という単純な構図を超え、互いにとって不可欠な「歪な依存関係」へと変質していきます。次郎にとって黒子は、ただの性的対象ではなく、罪を共有する“共犯者”として存在しており、彼女なしでは自分の価値すら保てなくなっていきます。一方の黒子もまた、次郎という“支配できる相手”にしか確保できない自己の居場所を見出していきます。

この関係性は、互いの「澱」が繋がり合って形成されたものです。次郎の側には、承認欲求と支配欲が混ざり合った孤独があり、黒子の側には、被支配者であり続けた人生から抜け出したいという反発心があります。本来なら交わるはずのなかった二人が、罪を共有したことでつながり、互いにとって唯一“自分をむき出しにできる場所”となってしまったのです。

しかしこの共依存は、癒しや救いとは程遠いものです。一方が関係を断てば、自分が壊れてしまう――そんな静かに続く地獄です。この関係は“出口”にも“檻”にもなり、罪と支配の記憶がふたりを逃れられない鎖でつなぎとめます。

読者が感じる“気持ち悪さ”の正体は、まさにこの静かで歪んだ共依存にあります。暴力も怒声もないのに、二人の関係は静かに、しかし確実に暴力的な深みに沈んでいきます。『澱の中』というタイトルの通り、その関係の深淵は意識の底に沈み、浮かび上がることなく、読む者の心にじわりと残り続けます。

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